クリスティアン・ムンジウ監督の待望の新作「エリザのために」が公開中です。この映画のただ者でなさは置いておくとして、取り急ぎ紫煙映画としての好感触をお伝えします。
いろいろあって父親が娘の部屋で少しお話します。立ち去り際、さりげなく父親が娘に語りかけるその言葉に愛を知る喫煙者は心動かされることでしょう。
「たばこも吸ってるんだろ?吸っていいよ」
多少思い通りではなかったかもしれないが娘に対する愛情が籠もっていますね。いつまでも子供と思っていたけど、娘は人間として自立した存在です。それを踏まえた発言です。
娘は煙草は吸わないかもしれません。そんなことは問題ではありません。彼女をひとりの人間として扱おうとした父親の覚悟のシーンでもあります。
「エリザのために」では他にもよい喫煙シーンがたくさんあります。若い頃からの付き合いでかつて同志であったことが伺える警察署長との絡みで、署長がくるくると手巻きの煙草を作るシーンなんかもそうですね。
ムンジウ監督の過去の作品と比較するととても穏やかな印象すら受ける「エリザのために」ですが、父娘のドラマに隠れた国家レベルの絶望を体現する大人たちと絶望世代の娘たちとのギャップを突きつけるきつい話でもあります。というそっち方面は本家で書くとして、取り急ぎ紫煙映画としての素晴らしさをご紹介しました。
公式サイト:エリザのために