J・G・バラードという作家の熱烈ファンであった時期がございまして、バラード原作の「ハイ-ライズ」が知らぬ間に映画化されていて、しかも撮った人が怪作「サイトシーアズ」の人という、これは公開を知らなかったことが大いに悔やまれます。ですが目出度く商品化もされて快適ホームシアターで堪能することが出来るのです。
「ハイライズ」は70年代に書かれた原作小説を忠実に映画化しており、映画内での近未来が現在から見ると過去であるという作りになっています。監督の原作に対する敬意と思いも伝わります。
70年代から見た近未来、それは多分70年代後半あるいは80年代初頭です。そういう時代設定の細やかなる美術の仕事も堪能できますが何と言っても煙草が堪能できます。
70年代80年代はまだ文明社会が今ほど神経症的にイカレていませんから、大人のみんなは煙草を吸いまくります。世の中にまだ未来というものがあって文明社会には喫煙文化という得がたい美徳が充満しています。
旨そうに煙草を吸うだけでなく、実にまずそうにも吸いますし、というか煙草は日常であり生活であり人生そのものですから良いも悪いも関係ありません。
今の時代、これほど大らかに喫煙シーンを撮ることは難しいと思われます。差別主義者でだまされやすく他人を攻撃することだけが生きがいの嫌煙どもが何やらでかい顔と声で幅をきかせてしまった肛門期固着時代においてまともな喫煙シーンを撮るには相応の時代設定を虚構に与えてやるしかありません。というかそういう時代設定の虚構こそが紫煙映画として至福をもたらします。
ベン・ウィートリー監督の個性と攻撃性がバラードの原作とぴったりフィット、「ハイ・ライズ」は紫煙映画としても近年希なる傑作にして映画としても素晴らしい出来映えの、我々世代直撃ニューウェーブ近未来過去のドラッグムービーで人を選ぶが選ばれる人は最高の一時を過ごせます。
紫煙に関してはこんなところでまたもやMovieBoo本体を差し置いて殴り書きしやすいこっちに先に書いてしまいました。